【映画】処刑人
よく聞け。貧乏も飢えも許す。怠慢も堕落も許す。だが不正は許さん。悪事は見逃さない。 地獄の果てまで追いつめる。悪事を働く者を殺し血の雨を降らせてやる。殺すな。姦淫するな。盗むな。これが神を信じる者の掟だ。人としての基本的な振る舞いだ。守らぬ者は死で報いよ。罪悪にも程度がある。それが軽い罪悪ならとがめはしない。だが度を超せば俺達の出番だ。お前達も罪を犯せば必ず俺達が現れる。それは報いを受ける時だ。 お前の信じる好きな神の下へ送ってやる。
主のために守らん。主の御力を得て、主の命を実行せん。川は主の下へ流れ、魂はひとつにならん。父と子と聖霊の御名においてー。
精肉工場に勤めるコナー&マーフィーのマクナマス兄弟は、いつもの通りキリスト教会で祈りを済ませたあと、行きつけのバーで呑んでいた。そこに現れるロシアン・マフィア。騒動に巻き込まれ命の危機にさらされるマクナマス兄弟だったが、翌日にはロシアン・マフィアの死体が発見される。容疑をかけられるマクナマス兄弟。無論、マクナマス兄弟の仕業だ。
主よ。我を聖人の一人にお加え下さいー。
彼らは「路地裏のセイント(聖人)」として町中にその名を轟かすことになった。
そして今夜もイタリアン・マフィアを処刑するのだ。
イケメンのクリスチャン兄弟が「祈り」を唱えながら、法を犯した悪人を皆殺しにしていく惨殺劇で、主への祈りを捧げる時以外は、妙にポップな会話、コミカルな様相。しかし、やってることは(悪人ではあるが)人殺し。
何が正義で何が悪かなど、本作で語るには滑稽だが、一応、当人らは神の使い・聖人として処刑という裁きを行っているつもりでいたりする。なにしろ「悪人は殺しても構わない」と神の啓示を受けたというのだから。
ホラー映画ではないが、残虐なシーンが延々と続くためか、至る国でR指定を受けている。おそらくバイオレンス・アクション映画になるのだろう。
とにかく殺す前に唱える「祈り」が印象的で、ある意味決めポーズにもなっている。物語のラストに、最強の”同じ穴のむじな”と出会い、裁判所で法では裁けない悪人を前に祈り「殺すぞ」と堂々たるキメ姿は、鳥肌が立つほどに格好よい。
一見して神への冒涜のような演出ではあるが、悪が栄えるこの世にあって、その悪が「神の御名」によって滅ぼされるので、あながち冒涜とも言えず、暴力的な演出も社会派の香りが漂い、イカしている。
VFXを使っているわけではないがスタイリッシュだ。
ところで彼らマクナマス兄弟を追いつつも、彼らの行いに一定の理解をしめす刑事に扮するウィレム・デフォーの演技が、かなりぶっとんでいる。捜査をしながら、エア・コンタクト、指先で指揮棒をふりながら殺人のソナタを演奏していたりする。この演技は、他ではなかなか観られない。
紆余曲折あり、ほとんど自主製作のような形で公開された本作であるが、2009年に「パート2」が製作・公開された。
もともと続編の製作が前提だったが、契約の問題で10年も経過してしまったのだった。作中も、そしてリアルも、なんともぶっとんだ作品だ。