★ The Tsuchinoko News 2 (つちのこ通信2) ★

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【映画】エミリー・ローズ

f:id:tsuchinoko118:20110802073629j:image:left:w240原題は「THE EXORCISM (小さく)EMIRY ROSE」。エミリーローズの悪魔祓い。邦題は「(でっかく)エミリーローズ」。”悪魔祓い”といって、オカルトホラーのようなフリをしているが、”法廷サスペンス”ものであり、オカルトホラーではない。

19歳の大学生エミリー・ローズは、突然、激しい痙攣と幻覚に悩まされはじめる。病院での検査や投薬は何の効果もなく、エミリーの症状は悪化を辿る一方であった。悪魔に取り憑かれていることを確信したエミリーは、教区司祭のリチャード・ムーア神父に運命を託す。しかし、ムーア神父の”悪魔祓い”は失敗に終わり、エミリーは変わり果てた姿で命を落とした。ムーア神父は、過失致死の罪で起訴。神父を弁護する女性弁護士エリン・ブルナーとともに「国民 vs ムーア神父」の裁判が始まった。

かつて、エンターティメント性を重視しつつも、”悪魔”の存在そのものへの懐疑を全面に押し出し、秀逸の人間ドラマとして成功した”SFホラー大作”「エクソシスト」が、そうであったように、本作もまた、「エミリー・ローズ恐怖のイナバウアー」が主題ではなく、法廷という狭い空間の中で、新しいアプローチの中、繰り広げられる真摯なテーマの作品である。弁護士として出世のみに固執し「裁判に勝てばいい」と、ある意味汚いことでもやってのける女性弁護士エリンが、ムーア神父の裁判を通じ、”正しいこと””正しい場所に立つこと”へ目覚め、荒唐無稽とも思える「悪魔祓い過失致死事件」をきっかけに成長する過程を描いききっている点は、目新しく、特筆に値する。単純に本作を、そのまま”法廷サスペンス”として捉えれば、あまりに筋書き通りの演出で、何がなんだかさっぱりであるし、異端オカルトホラーとして捉え、悪魔憑きのシーンにばかり目がいくと、驚異のメイクアップがあるわけでも最新VFXが活躍するわけでもなく、物足りない。が、”悪魔”の存在について争われているという、ある意味、特異な裁判であることを考慮すれば、この平々凡々とした演出のおかげで、事件そのものを、まさしく観客が陪審員の一員として、原告(国民)と被告(ムーア神父)の、それぞれの主張を聞くことができ、緊張感が高められるというメリットはある。2時間を越える時間も、あっという間、真剣に「悪魔の存在」について考えさせてもらえる。

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心の問題ではない。心の迷いでもない。ましてや精神病でもない。悪魔は、実在者なのだ。そして善とは、悪とは。信仰とは。本作(この裁判)は、そう問いかける。

生きるとは、すなわち、どういうことなのか。「エクソシスト」以来、しばらく聞くことのできなかった単純かつ根底的な魂へ問いに、主人公3人組エミリー、エリン弁護士、ムーア神父が真正面から答える。

聖書やキリスト教に疎い方も、必見。

エミリーが死んだ理由はこうだ(ムーア神父談)。痙攣と幻覚、医師が処方する薬も効かず、自分と神父以外に悪魔は見えない。もうどうしようもなくなったときエミリーは夢を見る(幻かも知れない)。そこには悪霊に憑かれ苦しむ自分とマリアがいた。エミリーはマリアに問いかける「なぜ、こんな苦しみを?」。マリアは答える「つらいのなら、今すぐに楽になることもできます。しかし、あなたを見て、人々は悪魔の実在を知るのです。どちらでも選びなさい」。エミリーは選び決めた。信仰に重きをおいて神父に悪魔払いを依願する。そして死んだ。
拘留され教会にも見放されたムーア神父の”荒唐無稽”な証言に、陪審員たちが下した評決は「有罪」。しかし「刑は、この裁判が終わるまでにしてはいかがでしょうか」。裁判長は「そうしましょう」と告げる。そこには、神の臨在と人々の信仰があった。

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事実は、精神病による医療ミス?それとも「悪魔のしわざ」?

本作の下敷きとなった実話。アンネリーゼ・ミシェル事件。(全6話のうち第1話)

http://www.youtube.com/watch?v=-oW-IhoxzyQ


全然関係ないが、ムーア神父役のトム・ウィルキンソンは、バットマン・ビギンズで街を牛耳る悪徳警官を演っていて、筆者のタイミングが悪く、バットマン・ビギンズを観た直後に本作を観てしまい、神父というより、とんでもない悪党に見えてしまい困ったということがある。