【映画】NY心霊捜査官
エミリーローズで良質の「オカルト裁判」を描いたスコット・デリクソン監督による良質の「オカルト刑事ドラマ」である。
NY市警のラルフ・サーキ巡査部長は、他の人には見えないものが見えたり、聞こえない音が聞こえたり、”勘”のよいところがあった。人はそれを”レーダー”と呼んでいた。
ある日のこと、動物園で母親が子供をライオンの檻に投げ捨てるという事件があった。また妻に暴行を続ける夫という事件があった。これらの事件は無関係であるように思えたが、サーキには”何か”が見えていた。
事件には何者かに取り憑かれたかのような半狂乱状態の犯人と、ライオンと話すイラク戦争帰りのペンキ屋ミック・サンティノと、そして、一見して神父とはわからない長髪に革ジャンのジョー・メンドーサ神父がいた。
メンドーサ神父は、サーキの”勘”は”霊感”であり、その霊能力を使って事件を解決するよう助言する。サーキは、たった一人の「心霊捜査官」となり、事件の真相に迫るが、そこには想像を絶する恐ろしい存在が潜んでいた。それぞれの事件は、すべて、つながっていたのだ。
イラク戦争で派兵されたミック・サンティノは、そこで遺跡を発見、潜入、何らかの扉を開いてしまったらしく、何者か取り憑かれてしまう。帰国し、ペンキ屋となったサンティノは、壁に「INVOCAMUS」(召還の意)と書く。すると、それは扉となり、影響を受けやすい心の者が悪霊に取り憑かれる。悪霊は(サンティノは)次々と悪霊に取り憑かれた者をつくりだしていたのだった。
「エクソシスト・コップ」という”実話”とされる原作があるらしく、このあたりは「エミリーローズ」と取り扱い方が非常に似ている。スコット・デリクソン監督のオカルト連作シリーズなのかも知れない。「エミリーローズ」では、主演女優の演技で全ての恐怖や絶望を表現していて、これといったVFX的なものはなかったが、本作では、VFXの嵐。気味の悪い死体造形のオンパレード。死体の腹が割れドス黒い内蔵が露出し、死体の目から虫がわき、全身複雑骨折の飛び降り死体、自傷で全身に血文字を描く男、R18なだけはある。
反面、イラクの遺跡のオープニングはエクソシスト。映像はセブン。陰影の濃い暗い画はエンゼルハート。聖職者とは思えない神父と神を信じない刑事、地下の監禁室での悪魔祓いは、エクソシスト3。オマージュというには多すぎる既出のシーン、見たことのある映像と話と演出が延々と続くのには、少々まいった。ハードボイルドで、良質のオカルトであることには間違いがないのだが、どこか大衆に媚びたヒット性を意識しすぎたところが見え隠れするのは残念であった。
せっかくの真面目な前半が、後半のてきとうな悪魔払いシーンで台無しにされた気がするのは、神父の罪・刑事の罪を、大してつついてこない悪霊と、それが昇華も浄化もされず、神の存在があいまいになっているところが原因しているように思ったりもする。
悪霊という陰の力の存在をリアルに描くのなら、物理学では存在証明さえ出来ない人知を超越した神の存在をリアルに示す必要があるだろう。エクソシストをオマージュに組み込むのならなおさらだ。また、エミリーローズを監督できるのなら、ことさらに、神の存在が不明瞭なのは、どうしたことだろうか。
どこかしら詰めが甘く、中途半端な作品であった。
一応「事実」なので、作品の最後に現実のサーキの”その後”が解説される。
市警を辞め、悪霊のスペシャリストたるメンドーサ神父と行動を共にしているとのこと。
だったらなおさら、単に「怖い悪霊」を描くのではなく、神とそれに背をそむける悪霊そして人間を描くべきだったのではないか。
疑問符のつく本作ではある。