★ The Tsuchinoko News 2 (つちのこ通信2) ★

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【PC】クラウド・コンピューティングの陰

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さまざまなメディアを日々見ていると、クラウド・コンピューティングの「光」の部分ばかりが強調された記事が目立つ。もちろん、単なる「ちょうちん持ち」の記事もあろうが、それほどに素晴らしいサービスであれば、NC(ネットワーク・コンピューター)が実権を掌握しても良さそうなものだが、実際にはそうはなっていないし、なろうともしていない。

むしろ、2〜3年前の方がNC風のモバイルノートが隆盛を極めていたのではないだろうか。
昨今では、話題は、すっかりiPhoneAndroidスマートフォンにうつったかのようにも見える。

もちろん話題は、ソフトウェアをダウンロードして利用する「モバイルアプリ」であって、仮想の世界でデータも何もかもを用いる「クラウド」ではない。

クラウド・コンピューティングの良さは、一言で表現するなら「仮想化によるコンピューターの巨大化・高性能化」だが、難しい話しはさておき、ユーザーにとっては、会員登録をするだけで、すぐに利用でき、データも”あちら”、ソフト本体も”あちら”なので、インストールや日々のバックアップなどのわずらわしさから解放されるし、ハードウェア(パソコン・スマートフォン)が変わっても、場所が変わっても、ネットを通じてすぐに利用できるところであろう。

ブラウザさえあれば、どこでも、いつでも。

これが一般的なユーザーにとってのメリットである。


ところが、前述のように、その素晴らしいメリットが存分に活用されているのは、オンライン・ゲームや、カンタンなWebサービス程度で、どんどんクラウド化されていっているのかと言えば、そうでもない。

クラウド・コンピューティングも、コンピューター技術の一つであり、「光」ばかりではなく、当然、「陰(かげ)」の部分もある。

不便なだけなら、まだしも「困る」「欠陥(言い過ぎか?)」部分=「クラウド・コンピューティングの陰」があるのは否めない。

まず「(ネットと)つなげば利用可能」というのは、一見、利便性が高いように見えて、実のところ「隠された部分」が多いことを意味する。普通のアプリも、中身のソースプログラムが見えないので、同じように捉えられる向きもあるが、クラウドでは、比較できないほど隠されており、ブラックボックス化されている。

例えば、一般のアプリが、勝手にインターネットに接続しようとすれば(情報収集なのか、ウイルスなのかわからないが)、他のアプリ=例えばウイルス対策ソフトが、「お知らせ」する。

クラウドでは、どこにあるかわからないサーバーで(自分の所有するPCとは別の機械で)動作しているため、そうしたことがわからない。いつ、情報を奪われても、盗み見されても、あるいは、削除されても、監視する手立ても、守る方法も提供されていない。

このことは、接続先のベンダー(提供会社)が倒産しても、突然サービスを打ち切っても、同じ事で、阻止する手段がない。言い替えれば、お手軽な反面、PCのユーザーの主権が大きく奪われていることを意味する。

もちろんクラウドサービスのベンダーは、「そのようなことはない」と言い、「そのようなことはない」ように努力をしているのではあるが、昨今の度重なる大企業の「情報漏洩」は、それが、口先でいうほどカンタンではないことを意味する。(米国ソニーの顧客情報漏洩事件は記憶に新しい)

漏れても失われても、さほど、困らない(?困るけど)のは、カンタンなメール・スケジュール・トゥドゥや、ゲームといったところで、業務用の例えば顧客リスト・売上データなどが、そうなってしまうと大変困る。深刻な事態だ。

自前のPCでも、こういったことは起こりうるが、バックアップするなり、壊れたら、ハードウェアを買い換えて(あるいは修理し)、インストールすれば、ほぼ復元できるし、P2Pソフトを使わない、操作する担当者を制限したり、と、いろいろ対策ができるのに対し、クラウドの方では、そうはいかない(全ては、ベンダーによる)ところは、ひょっとすると、致命的なリスクかも知れない。


こうしたことは、自社用(自店用)に、合わせてもらおうと、ちょっとしたカスタマイズをする際にも同様のことが言える。多くのアプリ開発会社は、ユーザーの声を聞き、バージョンアップをし、また、個別でのカスタマイズを受けてもらえることが多い。クラウドでも、システム的には、そうしたことも可能だが、巨大なコンピューティングの都合上、なかなか、そうはいかない。あるいは、膨大な費用が見込まれる。

一見、フットワークの軽そうな見栄えなのに、実際には、一般のアプリよりも腰が重いとも言えるかも知れない。

クラウドの開発者たちは、こう発言したという。

「利用する事で収益を上げ、中毒症状にさせることで、ますます顧客を増やせる」


ソフトウェアの開発を営む筆者も、この仕組み=クラウドは、たしかに”収益”のことを考えれば、儲けやすいのは間違いがないと思う。”クラウド”と、雲がごとく散在しているようなイメージがあれど、その管理体制は、一極集中型なので、ユーザーを囲い込みやすいのだ。

しかし、それは、単に自分の主権のため、自分の儲けのための話しであって、ユーザー様に貢献(社会貢献)し、ユーザー様のおかげで共にあろうとする 筆者の願いというかスタンスとは、まるで逆方向だ。

実際、専用業務システムでは、トータルで見れば、大企業で巨額の資産を投資できない限りは、結果的
にクラウドの方が値段も高くつくし、小さなところでは、ゲームなどで、囲い込まれるユーザーも多いこと
だろう。

開発者の思惑通りだと言える。

ある大手ベンダーの開発者は、その講演で堂々と「これだけ便利なのだから、セキュリティやリスクにこだわるな」と発言していたが、時代錯誤もはなはだしいしユーザー軽視にもほどがあると感じたのは、筆者だけではないだろう。

データなどのソフトウェア資産が、各PCに散在するメリットが、そもそものインターネットであったのであれば、ひょっとすると一極集中管理を目指すクラウドは逆方向に進んでいく退化なのかも知れない。
実際、「クラウド」とは、既存の技術を、そう呼び変えただけで、新しい技術ではない、とも言われている。
筆者も、そう思っている。


クラウドも、だからといって「悪」ではない。
使えばたしかに便利な仕組みだ。
依存することなく、ローカル(自前PCのアプリ)とのハイブリッドで、うまく活用すれば、クラウドの「光」を活かした利用も可能であることには間違いはない。