★ The Tsuchinoko News 2 (つちのこ通信2) ★

重要な話から、どうでもいいことまで。ほとんど役に立たないことを書き連ねています。

【映画】ナインス・ゲート

めずらしい本・希少な本を発掘・鑑定する”本の探偵”コルソは、悪魔学に傾倒するバルカンという富豪から、世界に3冊存在する「影の王国への9つの扉」について、どれが本物なのか調査するよう依頼される。高額の報酬に惹かれ引き受けたコルソだったが、それ以来、なぞの女につきまとわれ、また関係者が次々と殺される事件に巻き込まれる。
同じ本であるはずの3冊の本だったが、よく見ると、それぞれの本の版画が異なることに気づくコルソ。1冊に3つづつ、異なる版画は「LCF」の署名が入っていた。LCF=ルシファーだと気づくコルソ。
3冊の本に3つづつ封入されたLCF署名の版画を9つ集めると、秘密の扉が開くのではないかと考えたコルソだったが、依頼人のバルカンはそのことを知っており、今回の調査も9つの版画を集めることが目的だった。
ナインス・ゲート、9つめの扉は開かれるのか。また、開くのは誰か。そして、開かれるとどうなるのか。

悪魔学と言えばお馴染みのロマン・ポランスキー監督。いかにも彼らしいオカルトサスペンスで、出てくるわ出てくるわ、あやしい(いかがわしい)悪魔信仰描写。悪魔ときくと、堕天使ルシファーなどが著名で、あやしい魔物・妖怪のようなイメージで描かれることが多いが、そうした異形のビジュアルよりも、自己中心的にこの世を生きるため自由と力を欲する人間の姿こそが悪魔信仰そのものだという世界観で最後まで描かれている点は筆者的には評価が高い。
作中、黒い装束姿で集まり、祈祷書を読み祈りを捧げる場面が出てくるが、本の持ち主でコルソに調査を依頼したバルカンが乱入、ペテンだと断言する箇所がある。例えば悪魔教会では「サタニズム9箇条」というのがあったりして、あやしくとも何ともないように見えるこの世の普通のありがちな生き様そのものだったりする。バルカンもコルソも、そして、LCFが提供する「影の王国への9つの扉」の本を追う登場人物のほとんどが、多少人より欲があり俗物的ではあるが、あやしい像を拝んだりもしないし、あやしい装束を身にまとったりもしないし、あやしい呪文を唱えたりもしない。
ただ、欲しいものを欲し、愛したいものを愛する。すべて自分。という人物ばかりだ。
そして彼らが「ナインスゲート」の存在を知り、謎を解こうと奔走するのも、別にこの世を滅ぼそうとか、悪に染めてやろうとかいうのではなく、単に「この世での欲」だったりする。

もし本作で問題の本「影の王国への9つの扉」が出てこなかったら、なんてことはない、ごく普通の人の希有な本の争奪戦だ。

他人への無関心。まず自分。次に自分が選んだ好きな人、愛する人。

本作では、それが悪魔だという由緒正しい悪魔主義に基づいて描かれている。

ネタバレになるが、うすうす予想はできる通り、ナインスゲートを開くのはコルソである。
そして開いちゃうのだが、開くとどうなるのかは描かれていない。
もちろん開いたあとのコルソも描かれない。

ご存じの方はご存じだが、ロマン・ポランスキー監督は女優のシャロンテートと結婚し、マンソンファミリーにお腹の中の赤ちゃんごと殺されている。悪魔崇拝主義に酔い、高名を手にしていた彼が、また別のヒッピー風悪魔崇拝主義者に・・・・
悪魔とは、いつでもどこでも、そこにいる。
ごく普通に思える日々の生活にも。

そんな風に監督が言ってるようで、たぶん、ぜんぜん怖くないじゃんかという評価が大勢なのかも知れない。その怖くないものが悪魔なのかも。