【映画】K-19
原題は K-19:The WidowMaker 未亡人をつくる者。
女性監督でありつつも無骨で骨太非常にパワフルな作風で知られ「ハートロッカー」でアカデミー賞6部門にノミネート、監督賞を受賞した快挙で知られるキャスリン・ビグロー監督作品。
いまは亡きソビエトの実存した原子力潜水艦K-19の実際にあった深刻な原子炉事故を描くノンフィクションである。ノンフィクションと言いつつも、そこは映画、かなり脚色してあることは「そういうものだ」と流しておくことにしよう。
1961年、K-19はグリーンランド付近の北大西洋上で冷却装置に異常を来し、最悪メルトダウンも考えられる冷却水漏れ事故を起こす。そのほか様々な故障のため、長距離の通信連絡もとれず救援もない孤立した状態で、自分たちだけで冷却システムの応急措置=修理をしなくてはならなくなる。
過酷な状況で、難を乗り切ろうとする艦内の仲間たち。
生死のかかった中での人間模様が描かれる。
興行的にはイマイチだったようだが、なかなかどうして、狭い息も詰まりそうな艦内での危機感、乗員たちの緊迫感、裏切りもの、たいへんよく描けている。ハリソン・フォード、リーアム・ニーソンの演技合戦を観ているだけでも十分におもしろい。さまざまな映画作品で、へっぽこ役をやらせれば、この人の右に出る者も少ないだろうピーター・サースガードのヘッポコぶりも見逃せない。
しかしながら、ソビエトの原子力潜水艦の中にいるのは、なぜかアメリカ人。
アメリカ映画なので仕方がないといえば仕方がないが、なんとももどかしい感じがしたのは筆者だけでもないだろう。いちおうノンフィクションと歌っているのであれば、もう少し配慮のあるキャスティングでもよかったかも知れない。
原子力潜水艦の艦名を冠した映画でありながらも、一度も魚雷戦もなく、戦争描写が出てこず、当時の冷戦の描写もないので、イマイチ”助けを求めない”緊迫感に欠けているところも残念。
リアルの方では、この K-19。原子炉事故に衝突事故、火災事故とさんざんな目に合ってるので、このあたりも描かず、原子炉事故一点に絞ったのは、はたしてどうだったのか疑問は残る。
とはいえ、映画で応急修理に活躍した乗員の大半が、かなりの被爆をし、実際に亡くなっているところも、目を背けずに描ききり、まやかしの「安全」、ワインを飲めば被爆しないとか、果物は放射能にいい、とか、無責任な疑似科学の嵐など、米国作品にして、ここまで原子炉の危険性を描ければ十分だろう。
題材がソビエト、主題が原子炉事故と被爆にメルトダウン危機。
とある映画チャンネルでは、2011年3月の放送予定だったが、ずいぶんと先延ばしされたのは、内容が内容だったからであろう。
全体としては、筆者はわりと何度も観ているので、たぶん、よく出来ているのだろう。