★ The Tsuchinoko News 2 (つちのこ通信2) ★

重要な話から、どうでもいいことまで。ほとんど役に立たないことを書き連ねています。

【映画】モールス

「キック・アス」でヒットガールを好演したクロエ・グレース・モレッツと、「ザ・ロード」のコディ・スミット・マクフィーの子役二人組が主演を務める恋愛ものホラー。

雪の田舎町。離婚をして精神的に不安定な母親と、学校でのいじめに悩む少年オーウェンは、ある日の夜、雪の上を裸足で歩いている少女アビーと知り合う。最近隣に引っ越してきたらしい。オーウェンはアビーに惹かれ、やがて小さな恋心を抱き始める。ちょうどその頃、町では数々の猟奇殺人事件が頻発していた。
オーウェンはナイフで指を裂き、友達として(あるいは彼女として)血の誓いをしようと、アビーを誘うが、アビーは血を見るなり豹変し「消えろ」と低い声でつぶやく。

猟奇殺人事件の捜査をする刑事は、犯行のあと硫酸を頭から被り重体となっている男の娘が、雪の上を裸足であるき、見た目も近いと疑心暗鬼になり、家宅捜査を強行する。そこにはオーウェンが。そしてバスタブの中で眠るアビー。刑事はアビーに襲われ血まみれになる。それを見ていたオーウェン。
オーウェンはアビーの秘密を知ってしまう。

アビーは引っ越すと告げ、去って行った。
しばらくしてオーウェンは、いじめっこたちにつかまり、プールに投げ込まれ、窒息しそうになる。水の中で苦しくもがいている時にみたのは、いじめっこの生首と、叫び声、そしてプールに広がっていく大量の血であった。そこにはアビーがいた。

ヴァンパイアである少女アビーと、気の弱いいじめられっこ少年の恋物語として描かれる本作は、明らかにホラー映画である。ただ、そこに描かれるのは、ホラー(恐怖)ではなく、むしろ、心を通わす人間とヴァンパイアの姿だ。
アビーは、少女の姿をしているものの、ヴァンパイア。作中12歳かそこらと言ってるものの、実際には数百年は生きていると思われ、宣伝にあるような「イノセント・スリラー」とは、とても言えない。
子役であるクロエ・グレース・モレッツの外見で、子ども同士の恋愛のように見えるが、実際には、数百歳の怪物と、年端もいかない少年の物語なのだ。

演出や脚本もさることながら、二人の子役の演技の見事なこと見事なこと。
とくにクロエ・グレース・モレッツは、本作で非常に多くの賞を受賞しており、なるほどとうなづけるものがある。

ヴァンパイアとして飛び回るアビー、血しぶき、豹変などで、CGが使われているのだが不自然このうえないのが残念なところだが、ほかは及第点。ただ、多くの評論屋が絶賛するほど(スティーブンキングも賛辞をよせている)、おもしろいのかというと、アビーのイノセンスな雰囲気と子どものような恋心をクローズアップしすぎて、あたかも、純心であるかのように装った演出が、かなりつまらない。

もともとアビーには、父親に見える、あるいは、執事に見える中年男性がくっついている。
殺人をし、死体を木につるし、血をしぼりとり、と、アビーの食事を狩猟しているようにみえる。
物語の冒頭、あるいは中盤に、硫酸をかぶり病院の窓から飛び降り自殺をする、この男は何者か。
ほんとうの父親で、アビーというヴァンパイアになってしまった娘(あるいは産まれてしまった娘?もしかすると、吸血鬼にかまれた母親から産まれたのだろうか。よくわからない)の食料を探している子ども想いの父親なのだろうか。

また作中、恋心を抱く少年オーウェンの友人とアビーが並んで写る写真も出てくる。オーウェンは単純に嫉妬したようだが、気がつくといなくなった友人は、はたして何があったのか。アビーに襲われたのか、あるいは父親のようなあの男に殺されたのだろうか。

このあたりが全く描かれておらず、さっぱり事情がわからない。

あと10年し、20年し、30年してもアビーの12歳は変わらない。
そのとき、オーウェンは、あの父親のような存在になっているのだろうか。
そしてアビーは、また裸足で雪の上を歩き、新しい別の少年に恋をするのだろうか。
(それはすなわち、純真なイノセントの恋ではなく、単にアビーの「釣り」という意味である)

そうした描かれていない恐怖を観客の想像(妄想)に委ねる演出は結構なのだが、あまりに書き込み不足でアビーが単なる「お水の女」のような取り扱いで描かれているのは、どうも・・・

けっこう期待していたので肩すかしにあった気分だ。

なお題名の「モールス」は、作中、アビーとオーウェンが壁越しに会話するためにモールス符号を使うというくだりがあって、そこから。
主題でもなんでもなく、少年と少女の恋だけをクローズアップし、騙してでも売上をあげたい配給会社の思いが強く伝わってくる。

本来なら物語の狂言回しであってもいいはずの刑事が「名無し」で、その名無しの刑事をイライアス・コティーズが例の感じで熱演してたりするところに、なにか意味がありそうで何にもなかったのもちょっと哀しい。