【映画】第9地区
ある日突如としてヨハネスブルグの上空に現れた巨大な宇宙船。中には大量のエイリアン(宇宙人)がいたが、支配層が死亡したことで、大量の”宇宙難民”となってしまい、地球で難民生活をすることになった。
超国家組織MNUの管理・監視の下、第9地区と呼ばれる地域に生活をはじめる大量のエイリアンたち。甲殻生物のような出で立ちで”エビ”と蔑称させるエイリアンたちは、文化などの違いから、人類と小競り合いを始める。
”エビ”たちは、新しいキャンプ地として用意される第10地区に移動することになり、MNUのヴィカスが調査勧告に現れるが、不用意にエイリアンの所有物=黒い液体が入ったカプセルに触れて、液体をかぶってしまう。
激しい嘔吐、黒い体液、尋常ではない異常を来すヴィカス。
気がつくと、左腕がエイリアンのものに”変身”していた。
ヴィカスは黒い液体をかぶったことで、差別の対象で蔑むべき対象である”エビ”エイリアンに変わり始めていたのだった。
2009年米・南ア・NZ合作の作品で、ニール・ブロムカンプ監督作品。長編デビュー作である。
SF映画の体裁をしているが、どこか下世話で、エイリアンの扱いが侮辱・中傷と痛々しく、その差別的な描き方から、公民権と何かしら関連があると思っていたら、アパルトヘイト時代のケープタウン第6地区強制移住政策を元ネタとしているそうな。
上から目線で”エビ”と蔑称を吐きながら支配し、大好物のキャットフードをあざ笑い、下等生物以下の扱いをしながら、汚らしい・不衛生だと、さらに狭く住みにくい第10地区へ追い払おうとする人間。
その立場から、急に180度転換。彼らに変身をはじめてしまうヴィカス、親しい人も最愛の妻さえもが、侮辱をはじめ、助けようともしない。
どこか下世話で、どこか抜けてコミカルに描きつつも、「差別」をしっかり描ききっており、筆者の評価は高い。
映画のラスト、エイリアンの中でも少々知恵のあるクリストファー・ジョンソン親子は、まんまと母船を動かし地球から去って行く。ヴィカスに「必ず(その状態を)治す。3年待て」と言い残して。
テレビのコメンテンターは「逃げ去ったのか・・・ あるいは、総攻撃の準備をして戻ってくるのか・・・」と、コメントする。
さんざん、ひどい扱いをしてきた自分たちの所業をよく理解している。
最初は、多くの人間同様にエイリアンに、むごい扱いをしてきたヴィカスだったが、最後には(我が身かわいさ、治りたいも手伝って)エイリアンたちを守るために、人間と戦う者になった。
筆者も含め、わたしたちは日々、誰か何かを、あざけってはいないか。
その醜悪な姿を客観視できる作品。