★ The Tsuchinoko News 2 (つちのこ通信2) ★

重要な話から、どうでもいいことまで。ほとんど役に立たないことを書き連ねています。

【映画】フェーズ6

f:id:tsuchinoko118:20120423131734j:image:left:w240原因も何もかも不明で突如として発生した致死率100%のウイルス。世界は終末へと向かっていた。ブライアン&ダニー兄弟と、そのガールフレンドの4人は、車に乗り込み、メキシコ湾のビーチホテルへと向かう。ウイルスに感染した人間にさえ会わなければ、感染もしない。助かるというのだ。

原題は Carriers(感染者たち)。新スタートレックで名を馳せたクリス・パイン主演の2009年米国作品である。

いわゆる感染・世紀末もの、だが、感染者はそのまま死んでしまうだけで、襲ってきたりはしない。その点で、感染=ゾンビものというわけでもない。

はたまた感染を抑止するために国家が地区ごと隔離したり、感染の恐怖にパニックが起こったりもしない(というより、そんなにたくさんの人が出てこない、街も出てこない)ので、感染=パンデミックものというわけでもない。

ただ「殺人ウイルスに感染しないために」。ただ「逃げるため」に、4人の男女が田舎町を疾走する作品で、途中に、いろいろと人に会うのだが、さほど大きな物語はない。

主人公らは、とにかく「感染したくない」だけなので、感染者との関わり=人との接触を根本的に避ける。余命わずかな感染娘をかかえる父親に出会っても、とにかく、どうやってこの親娘から逃げ去るか、その場を立ち去るかにご熱心で、助けようとか、悲しみを共有しようとか、そういうことがない。冷静に、関われば「うつる」と。そればかり。

ブライアンの彼女が、娘さんのことを心配し、うっかり手を貸そうとすると、しっかり感染してしまい。それが分かると、恋人のブライアン、弟のダニと彼女は「切り捨てろ」と、あっさり見捨てて去って行く。

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物語の佳境で、主人公ブライアンも感染。
弟と殺し合いを演じ、結局殺されてしまう。
弟ダニーとその彼女は、兄さえも切り捨てて去って行くのであった。

ひたすらこの調子で抑揚のない場面が続く。

「生きる(生き残る)ためには仕方がない」と、えらく冷たく、他者をズバズバと切り捨てていく様は、どこか刹那的で、冷酷で、もの悲しい。

観客サイドとしては「なんだそれは。仕方がないのか。生きるためには当然なのか」と、唖然としてしまうような物語の展開だ。(ある意味、非常に現実的な描き方なのだが)


ネタバレになって申し訳ないが、最終的に、弟のダニーと彼女は目的のメキシコ湾のビーチホテルに到着する。
がんばったおかげで目的を達成したのだ。

ところがダニーは、ちっともうれしくない。
感動もない。

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ビーチホテルは廃屋となり、いままでの経過から「ひょっとして生き残ったのは、僕たち二人だけなのかも」と気づく。
しかし、勝者であるはずなのに、勝者であると自覚することができない。
それは、兄を殺したから、ということでもなく
多くの人を見捨ててきたから、ということでもなく

自分たちも、こうして生き残ったところで、いずれ死ぬからである。

たとえ、死ぬまで殺人ウイルスに感染せずに済んだとしても。


よくよく考えれば、愛する兄弟に、見知らぬ人たちをも、踏み台にして、いったいどこへ行こうとしていたのか。勝ち続ければ、どうなるというのか。そのために、なにがどう仕方がないのか。
地味な作品だが、とても考えさせられる。



それにしても、ウイルス感染から身を守るために、花粉症用のマスクと、漂白剤だけ、という、このデタラメさは何だろう。
最初は、演出の甘さかと思ったのだが、製作者が訴えたかったことは、もう少し、時事ネタで現代人をあざけり警告している何かがありそうな気がしているのは、筆者だけだろうか。