★ The Tsuchinoko News 2 (つちのこ通信2) ★

重要な話から、どうでもいいことまで。ほとんど役に立たないことを書き連ねています。

【映画】ひかりごけ

f:id:tsuchinoko118:20111116071519j:image:left:w220戦時中のこと。北海道の室戸岬で、吹雪の中、極秘任務につき出航した民兵の船が座礁する。
乗組員の大半が、極寒の氷の海に投げ出されたが、わずか4人は、なんとか岸にたどり着き、難を逃れる。
しかし、食料がない。。。。

数日後、羅臼村に一人の男がたどり着く。船の船長であった。最初は「奇跡の生還」をとげた船長を、天皇よろしく崇める村民やメディアだったが、ある日、海岸で白骨死体が見つかる。
調査の結果、白骨死体は、この船長と共に出航した若者「西川」のものだと判明。。。刑事は詰め寄る・・・「で。。。どうやって生き延びたんだ」

前半は、座礁した船から難をのがれた4人が、寒さと空腹の中、次々と死んでいき、それを船長が、さばいて煮て食う、寒々しいシーンが、ひたすら続く。まず、杉本哲太が、「おまえらに食われたくねぇ!」と叫び死に、食われる。次に、田中邦衛が・・・そして「西川」奥田瑛次が・・・豪華キャストは、寒さと飢えで死に、そして三國連太郎の血となり、肉となるのだ。
そして後半は、裁判所で船長が裁かれるシーン。
二部構成である。

実際に起こった事件=ひかりごけ事件を題材に、人の原罪を問う、武部泰淳の原作小説を映画化した、人食い作品。

f:id:tsuchinoko118:20111116071517j:image:right:w240はたして仲間の死体を食って生き延びた船長は、罪を負うべきなのか。人が人の罪を問う限界点、正義とは何か、法とは何か、考えさせられる。
かわいた切り口が、小気味よい作品・・・のはずが、監督の演出が、ウエットな分、惜しいと思う。

映画は暗に例え自分が死んでも仲間を食うなとか、遺族利権を高らかに歌い上げているような演出が随所に見られる。いのちとは何か、生きるとは何か、実際、生きるということはこれほどまでにすさまじいものだ、というようなものは皆無で、ただ単に、死んだ仲間を食うのは言語道断だとでも言いたげな傾き(偏り)がある。

本作、および、本件のような場合、はたして、そんな「正常な側」だけの人間賛歌を歌い上げることが正しいのかどうか。実際、裁判では、異常な状況でそうするしかなかった、ようなことを言いながらも、有罪とされており矛盾のような謎めいた部分が残っている。また、当時、連合軍(敵)の死体は食ってよいみたいなノリというか通達があったようななかったような(事実は闇の中)、しかし日本人はダメだ、とか。はたまた、死体を食うという罪がなかったため、死体損壊で裁かれている点、など、考えさせられる部分は山ほどある。

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ただ淡々と起こった事実を描いたような(といっても想像の範囲なのだが)前半に比べ、事態を全部ひっくるめて悪で罪だと結論づけたような描き方には疑問符がついたりもするのだった。

もし、あなたが同じ状況に遭遇し、あなたには守らねばならない家族があったなら・・・ 

すなわち船長の立場から描く面が徹底的に抜け落ちているのである。これでは単にありふれた猟奇殺人ものだ。題材がいいだけに残念な部分であった。